ドロップアウトなう。

鬱のリハビリで始めたドロップアウト研究者(P.N.室屋キチジロー)のブログ。思考記録、諸々の雑感など。建築/歴史/民俗/デザイン/近代化遺産etc.

オタク的思考とオタク的趣向―ある飲み会の議事録―

22日の実家への転居を控え、引っ越しの準備や送別会で忙しくしています。

僕の“東京のお兄ちゃん”の1人であり、恩師の一人でもある方に先日お会いして飲んだのですが、毎回内容が興味深いので、過去の飲み会での分も合せて一度『議事録』と題してまとめておきたいと思います。

 

オタク的趣向とオタク的思考

良くも悪くも、僕と先生はオタクと言われることが多いタチですが、僕ら的には所謂萌系アニメのようなものには一切の興味がないし、紋切り型にオタクと言われることにいまいちしっくり来ていないんです。「じゃあ果たしてオタクってなんなんだ」「僕らってオタクなのか」ということを考えました。(そもそもこの話題自体がオタクっぽくもあるわけですが)

 

結論から言えば、一般的なオタク像は、『オタク的思考』に基づくものと『オタク的趣向』に基づくものがごっちゃになって認識されており、僕らは『オタク的思考』をしていることから『オタク』だと言われがちである、ということだと思うんです。

かつ僕らは原理主義的立場に則れば『オタク』であり、一方で広く一般に現代人が言うところの『オタク』ではないのではないといえます。

 

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以下で解説します。

 オタクってそもそも―オタク的思考の誕生―

僕は『オタク的趣向』と『オタク的思考』には近年、大きなギャップが出てきていると考えています。これには背景として時代とともに一般化されたオタク像と、変化したオタク文化の消費構造があります。

 

そもそも元来オタクという呼称自体は、サブカルチャーのマニアを指す言葉で、彼らが交流する際に「おたく(あなたの意)」と呼びあったことから生まれたといいます。これは現在の萌えアニメを趣向とするオタク像とはかなり乖離していて、かつてはあくまでも『オタク』=『マイナーな趣味を持った人一般』を指していたわけです。(だからアニメ・漫画だけでなく、鉄道オタク・ミリタリーオタク・SFオタクなど広範なものを含むのです)そして当時オタクと呼ばれた人々には、メインカルチャーを無批判に信奉せず、自分で情報を収集・分析・理解することで結果的にサブカルチャーに行き着いた、独立した知的な個人としての自負=『一種の知識階級意識』がありました。

 

つまり僕らの定義するところによれば、本来は「自分の趣向や周りで起こる現象への主体的思考の態度」こそがオタクの本質であり、『オタク的思考』である(あった)と言えると思います。

極端に言えば、幕末志士の勤王思想なんかも『オタク的思考』の産物です。

 

オタク文化の消費構造の変化―オタク的趣向の一般化―

1988年に宮崎勤幼女殺害事件が起き、オタクという言葉が一般に知られるようになった一方、『オタク』=『陰気で不潔なアニメ好きの性犯罪者』のレッテルが貼られ、本来的なイメージとはズレて社会認知が進みます。

 

このイメージにさらに1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」以降のアニメ・マンガ文化の一般化、そして2005年の「電車男」以降のオタク像の共通認識化が加わることによって、いまや広義には『オタク』=『アニメ・マンガのファン』であり狭義には『萌え系の二次元好き』になってしまいました。

つまり、オタクが広範になりすぎてしまったために、すでに知識階級というイメージや自負は崩れ去り、『オタク』=『オタク文化の消費者』程度の意味合いとなって、『オタク的思考』は今やオタクの共通の特徴ではなくなってしまいました。また、一方で『オタク』=『萌系の二次元好き』というのは一部のオタク文化が社会意識の中で増大したために起こった、現代的な『オタク的趣向』のイメージと言えます。

 

結局こういうところがみんなに嫌がられるんでしょうけどね(笑)

というわけで、僕らはオタクなの?という問いの解像度には、イエス・ノーで答えることは難しく、本来的な意味での『オタク的思考』は持っているけれど、現代的な意味での『オタク的趣向』は持っていないし、なんなら萌えとかはちょっと苦手なタイプだぞ、ということなんです。

 

まあ人によっては『オタク』であることよりも『オタクっぽい』ことのほうが嫌がる人がいるわけで、結局のところ何が嫌がられてるって、この面倒くさい感じが嫌がられるんでしょうけどね(笑)

でもこういう面倒くさい議論は、口頭で議論するよりは文章のほうがとっつきやすい気もしてきました。

 

ちなみに今回の議論で取り上げたことの多くは、すでに各所で議論されまくっていることを基盤としています。サブカル論やオタク文化の変遷については以下のリンクに詳しいので、ぜひ参照してみてください。

 

NHKで放送された宮沢章夫の『ニッポン戦後サブカルチャー史』(特に第1期)は、身の回りの出来事を主体的に調査・理解しようと試みる性分(『オタク的思考』を持った人)であれば面白く見ることができると思います。

www.nhk.or.jp

 

岡田斗司夫は多分知識階級意識があったオタクのど真ん中にあった人で、現代のオタク文化の消費構造の変化、『オタク』と名乗る・呼ばれる人たちの性質の変化を2014年に『オタク・イズ・デッド』と題して講演を行っています。この講演もオタクの歴史からなぞってくれているのでわかりやすいし、何より話が面白いのでおすすめです。

岡田斗司夫『オタク・イズ・デッド』 エンターテイメント/動画 - ニコニコ動画